ヘルスプロモーション・健康教育国際連合コミュニケーション諮問委員でもある 弊社代表 蝦名玲子(博士)が語る
                                     ヘルスプロモーションの5つの活動戦略と具体的な活動例 


《プロローグ》

 私は米国のミシガン州立大学・大学院を卒業・帰国後、しばらくは、3つの保健医療福祉分野の研究所で働いておりました。
 しかし「健康とはただ病気がない状態のことではない。人が健康だと思える状態は人によって異なり、それは、その人が今までどのような環境のなかで生きてきて、どのような経験をし、その経験から何を学んできたのか、そしてこれからどのように生き、どのように死にたいと思っているのか、等が反映される。保健医療福祉専門職は、その人が求めている健康状態になるようにお手伝いをする存在だ」と考えるようになり、既存の組織では、私の理想とする「健康づくり」を支える活動(以下、ヘルスプロモーション)ができないと思うようになりました。
 このため、
2002年から、民・学に所属し、それらの所属を利用して、9割くらいの仕事を官と一緒にさせていただくスタイルで、縦割り文化のある保健医療福祉業界で、自由に横歩きしながら、ヘルスプロモーション活動に取り組み始めました。
 具体的には(2008年現在)、1)グローバルヘルスコミュニケーションズという会社とクロアチア・ヘルスプロモーション基金という国際的な市民団体の代表を務め、2)東京大学、順天堂大学、大阪樟蔭女子大学、青森県立保健大学の4つの大学で研究・教鞭をとり、3)主に関西や九州の地方自治体と一緒に、ヘルスプロモーションに取り組んでいます。
 
ヘルスプロモーションとは、「人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善することができるようにするプロセスのこと」とWHO(世界保健機関)は定義づけ、5つの行動戦略を提唱しています。私の活動も、これらの5つの柱に沿っていますので、1つずつ、ご紹介させていただきたいと思います。




ヘルスプロモーション活動 その1. 健康的な公共政策づくり


 政策は人の健康や寿命に影響します。たとえば米国は世界のリーダー的役割を担っていますが、米国に住んでいて65歳まで生きられる可能性は、HDIランキング(国の開発レベルを示す指標)のずっと下の国であるキューバやチリに住んでいるより、低い。これは、健康格差を生み広げる社会システム・医療政策のためだといえます。
 日本はいま、医療費削減にばかり目を向け、根底から医療システムが崩れようとしています。
 「この流れをなんとか変えたい」と願い、私は行政(比較的自由度の高い市町村レベル)の政策づくりのアドバイザーをさせていただいております。



ヘルスプロモーション活動 その2と3. 健康を支援する環境づくり&地域活動の強化

 人は、ひとりでは生きられない動物です。孤独は、精神的な病を引き起こし、最終的に、身体的な病気や早死につながります。いまの日本で、人が不健康な行動をとり続けてしまう大きな理由は、お互いの存在を認め合わない、無関心な社会が原因であると考えております。
 このため私は、国内では、宮崎県串間市に、ハッピー串間市民大学を、串間市福祉保健課の職員の皆様と一緒につくらせていただいたり、海外では旧ユーゴ紛争被害の激しかったクロアチアとボスニアの国境やセルビアとの国境にあるNGOの医療専門職の皆様と一緒に、クロアチア・ヘルスプロモーション基金をつくらせていただいたりし、そのうえで、そこを活動拠点として、人を信じることのできる、ここで落ち込み続けることは難しいという文化のある社会をつくる活動をしています。



ヘルスプロモーション活動 その4. 
個人技術の開発

 日本人の健康意識は高まっているのですが、情報に翻弄され、健康状態を悪化させる人もたくさんいます。
 保健・医療・福祉の専門職は、せっかくきちんとした専門知識があるのだから、相手に「この人からもっと、学びたい」「この人の勧める健康行動をとろう」と思わせるような、もっと相手の心に響くコミュニケーションをとる必要があると考えています。
 そのときのポイントは、アートと科学です。アートの根底には、愛が必要です。愛があるから、相手に関心を抱き、その人のために何ができるかを考え、自分なりのコミュニケーションのスタイル(持論)を創造することができます。でも、「こういうタイプの人は苦手。だからこういうタイプの人とコミュニケーションをとると、いつもうまくいかなくなる」というようなとき、つまり持論が効かない場合には、心理学や行動科学の理論を知っておくと(科学の部分)、うまく自分の伝えたいことが伝わるようになります。
 私のアメリカ時代の専門の、ヘルスコミュニケーション学(現在は、これに健康社会学がプラスされました)を生かして、私は月のうち半分くらいは、国内出張に出て、行政主催の、保健医療福祉専門職を対象としたヘルスコミュニケーション研修や講演をさせていただいております。もちろん、その他の方々(民間の医療保健福祉従事者や専門職を目指す大学生など)の教育をさせていただくこともあります。また同内容の本や連載も執筆させていただいております。
 しかし、私のコミュニケーションに対する姿勢の基本は、be-do-haveの順番です。つまり、be (しっかりした器、人としての優しさや品性)があってはじめて、do(アートと科学を駆使した効果を出すコミュニケーション)をとることができ、have(その結果、素晴らしい人間関係)を持つことができる、という意味です。beを磨くべく、私自身、日々成長したいと強く願い、意識しております。



ヘルスプロモーション活動 その5. ヘルスサービスの方向転換

 いままで、健康分野では、「このような病気にならないように、この健康行動をとりましょう」というように、病気になる要因に目を向け、それを回避・排除するだけの、一辺倒のアプローチをしてきました。もちろん、病気の要因すべてを排除できればいいですが、そんなこと、絶対に無理です。会社が倒産したり、いじめのある職場環境にいたり、事故にあったり、要介護状態で自分の心の状態に無関心な家族と住んでいたり、自然災害の被害にあったり、戦争が起きたり、…と程度の差こそあれ、生きていると必ず、個人の努力ではどうしようもない状態に、陥ることがあるからです。そうしたとき、病気になる人もいれば、病気にならない人もいます。
 大きなストレッサーにさらされても、どうして病気にならない人がいるのか?
 個人の前向きな姿勢や考え方、ストレス対処能力をはじめ、健康を保持・向上させる要因は、たくさんあるはずです。これからは、保健・医療・福祉分野でも、健康を育む要因にももっと目を向け、その要因を増やしていくようなアプローチをすることで、さらにヘルスサービスの質は高まると考えております。
 このため、私は、小児がんを持つ子どもやその付き添いの母親に笑いある時間をプレゼントしてくれるクリニクラウン(臨床道化師)の研究をしたり(今年で3年目)、旧ユーゴ紛争を思春期のときに経験した人たちのストレス対処能力の研究をしたり(今年で6年目)、その研究結果を用いて、自治体、病院、学校の職員の方々にアドバイスをさせていただいております。



 以上が、私が2008年10月現在、取り組んでいるヘルスプロモーション活動で、これから更に発展させていきたいことです。

 
私は、ヘルスプロモーションの成功事例を早く、どんどんつくっていって、少しずつでも、社会を良い方向に変えていかないと、日本が安心して暮らせない国になってしまう、と危惧しています。もう既にその傾向はあって、経済大国なのに、老後の不安を抱いている人がたくさんいる。これは、とても悲しいことです。

 「この社会で暮らしていてよかった」
 そう思える社会に、私は住みたいし、愛する人たちにも、住んでもらいたい。

 私がいま、民・学に所属し、官と一緒にお仕事をさせていただいているのは、ヘルスプロモーションの成功事例をたくさんつくり、安心して暮らせる社会をつくりたいと心から願い、またそういう社会をつくることが私の使命だと感じているからです。

 


ヘルスプロモーションは、ひとりでは取り組めません。


 「ヘルスプロモーションってステキな活動だな」「一緒に取り組みたいな」と思われた方は、ぜひ、こちらに、ご連絡ください! 一緒に、ステキな社会をつくりましょう!!